世界の水難災害と温暖化の真実! 気候変動の救世主に原子力発電はなり得るのか

社会

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こんにちは、ゲンカイモン です。

私たちの脳は往々にして目先のわかりやすい情報に飛びつき、物事の背後にある複雑な真実を見落としてしまう厄介な性質を持っています。

あなたが当たり前だと信じている、その常識こそをまずは疑う習慣をつける。

結果、あなた自身の目で新たな視点が見つけられるようになります。

本日は私たちが直面している命の危機の真実、その解決策として再び脚光を浴びている巨大なエネルギーシステムの是非について、限界まで議論を深めていきます。

このわずか2時間、されど2時間のヒルガチを最後まで見届けた時、あなたの前に開けている世界は全く違って見えるはずです。

それでは、世界で私が最も信頼を置く熱きアンカーマンに進行を託しましょう。

田川さん、後はよろしくお願いします。

 
田川
ゲンカイモンプロデューサー、お任せ下さい。

テレビの前のあなた、本日もヒルガチの時間がやってまいりました。


田川 福三郎(たがわ ふくさぶろう)
ジャーナリスト歴60年、現在ヒルガチ専属MC。ゲンカイモンが最も信頼を置く頼れる相棒。番組をまとめることが使命と信じる熱い男。事前にゲンカイモン、アシスタント大鷹と入念に打ち合わせを行い、理論武装した上で番組へ臨んでいる。3人目のパネリストとして鋭く切り込む。

本日のテーマ発表 − 二人の知性はこの難題をどう解決するのか

田川
早速ですが、本日のテーマを発表いたします。

世界の水難災害と温暖化の真実! 気候変動の救世主に原子力発電はなり得るのか

2026年8月26日朝に発生したネパールでの大洪水、日本国内で頻発する線状降水帯 など、私たちの命を脅かす水難災害はもはや他人事ではありません。

線状降水帯

せんじょうこうすいたい
発達した積乱雲が数時間に渡り一定の場所に停滞、大雨をもたらす線状の雨域。

気象庁の最新の観測データでは、全国の大雨の年間発生回数が増加している事実が浮き彫りになっています。

※ 図引用:気象庁|全国の1時間降水量50mm以上(上)、同80mm以上(中)、同100mm以上(下)の大雨の年間発生回数の経年変化(1976~2025年)


  • 全国の1時間降水量(毎正時における前1時間降水量)50mm以上の大雨の年間発生回数は増加しています。
    • 統計期間1976~2025年で10年あたり27.8回の増加、信頼水準99%で統計的に有意。
    • 最近10年間(2016~2025年)の平均年間発生回数(約340回)は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均年間発生回数(約226回)と比べて約1.5倍に増加しています。
  • 全国の1時間降水量80mm以上の年間発生回数は増加しています。
    • 統計期間1976~2025年で10年あたり2.6回の増加、信頼水準99%で統計的に有意。
    • 最近10年間(2016~2025年)の平均年間発生回数(約25回)は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均年間発生回数(約14回)と比べて約1.8倍に増加しています。
  • 全国の1時間降水量100mm以上の年間発生回数には増加傾向が現れています。
    • 統計期間1976~2025年で10年あたり0.6回の増加、信頼水準95%で統計的に有意。
    • 最近10年間(2016~2025年)の平均年間発生回数(約4.4回)は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均年間発生回数(約2.2回)と比べて約2.0倍に増加しています。

※ 引用:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」

これらは地球温暖化が一因であるのは議論の余地はないでしょう。

根本の原因である二酸化炭素の削減には「原子力発電を今よりさらに活用するしかない」 そんな声が世界中で再び高まっています。

果たして原発という選択はデータに基づいた冷静な判断なのか。

それとも、マスコミの過剰報道がもたらした一過性の反応に過ぎず、この声は徐々に沈静化していくのか。

本日はこの待ったなしの課題に対し、各界のトップランナーをお招きし徹底的に議論してまいります。

それでは、本日の強力なパネリストのお二人をご紹介しましょう。

まずはお一人目、原発推進の代表的論客と言えばこの人、海老沢 康之さんです。


海老沢 康之(えびさわ やすゆき)
・緑星国際大学大学院環境エネルギー研究科修了
・気候変動とエネルギー政策
・環境経済学博士
・著書『脱炭素社会へのロードマップ』他

海老沢
本日はヒルガチにお招きいただきありがとうございます。

海老沢と申します。

気候変動はもはや猶予のない人類の危機であり、現実的な解決策を選択するべき時が訪れています。

統計データに基づき、感情論を排した議論を展開したいと思います。


田川
海老沢さん、どうぞよろしくお願いいたします。

お二人目はこの方、一時的な恐怖心からの原発推進は放射性物質の不可逆性を無視した暴論と説く、小此木 栄作さんです。


小此木 栄作(おこのぎ えいさく)
・東都理科大学大学院工学研究科修了
・環境社会学および防災工学
・社会システム工学博士
・著書『災害レジリエンスと地域社会』他多数

小此木
初めまして、紹介にあずかりました小此木 栄作と申します。

危機感を煽るだけの単視眼的なアプローチは、かえって社会を原発の巨大なリスクへと導きかねません。

複眼的視点から真のレジリエンスについて問い直す、価値ある2時間にしたいと思います。

レジリエンス

Resilience
精神的回復力。困難や逆境、強いストレスに直面した際、それをしなやかに乗り越えて元の状態に回復する力。

田川
おふた方にはヒルガチにふさわしい、明るい未来へと繋がる討論を期待しています。

と……その前に、大鷹さんが徹底的な事前調査でまとめてくれた論点の発表とまいりましょう。

大鷹さん、論点が記載されたフリップを提示して下さい。

 
大鷹
かしこまりました、田川さん。

本日のテーマに関する肯定的側面と否定的側面、それぞれを5つにまとめました。


大鷹 純 (おおたか じゅん)
ヒルガチ専属アシスタント。徹底的なファクトチェックとパネリストとの出演交渉に奔走する影の立役者。田川、ゲンカイモンとは制作会議で激論を交わし合う同志。常に冷静沈着な仕事ぶりだが、実は誰よりもヒルガチを愛する熱血漢。初回放送 では感極まって号泣する純粋な一面を見せ、視聴者の心を鷲掴みにする。

まずは、原発の新規開発を含む再稼働を推進すべきという肯定側の論拠です。

原発推進肯定側の主張(メリット)
  • 地球温暖化の抑制
    CO2排出量ゼロのベースロード電源として、地球温暖化を効果的に抑制可能。安定した電力供給を維持しつつ温室効果ガスを劇的に削減できるため、温暖化対策の切り札となり得る。


  • エネルギー安全保障
    化石燃料への過度な依存から脱却。地政学的リスクや資源価格の乱高下に左右されない、自立したエネルギー基盤を築くことが可能。

  • 安定した電力網の構築
    最新の安全基準を満たした原発の稼働により、安定した電力網の構築ができる。天候に左右されない確実な電源を確保し、現代社会の高度なインフラを支える。


  • 国際的なクリーン投資の呼び込み
    グリーントクソノミーに基づく、国際的なクリーン投資を国内に呼び込む。環境配慮型ビジネスとしての評価を高め、持続可能な国際金融の枠組みに適合させる。


  • 気候変動災害からの人命救助
    気候変動による激甚災害から世界中の人命を救う究極の切り札。暴走する気候危機を食い止め、地球規模の被害を最小限に抑えるための不可欠な手段。

次に、原発の稼働には慎重にならざるを得ないという否定側の論拠は以下です。

原発推進否定側の主張(デメリット)
  • 複合災害のリスク
    異常気象による巨大台風や高潮が沿岸部の原発を襲う複合災害のリスク。温暖化がもたらす激甚な自然災害と、巨大エネルギー施設が直面する予測不能な相乗的脅威。


  • コストとタイムスケールの不適合
    新増設には莫大なコストと時間がかかり急務である気候対策に不適合。刻一刻と迫る気候危機のタイムリミットに対し、完成遅延と膨大な予算超過が確実視される非効率な投資。


  • 歴史的ジレンマと教訓の風化
    過去の過酷事故の教訓が風化し、社会が再び安全神話に陥る歴史的ジレンマ。過去の悲惨な犠牲の記憶が薄れゆく中、再び危うい安全神話の呪縛に囚われていく社会的退行。


  • 放射性廃棄物の将来世代への負担
    放射性廃棄物の最終処分場問題が未解決のまま、将来世代へ負担が先送りされる。何万年もの管理が必要な核のゴミの負の遺産を、解決の糸口を見出せないまま次世代に先送りする倫理的問題。

  • グローバルサウスへの適応策支援の欠如
    グローバルサウスへの真の支援は原発輸出ではなく適応策への直接投資。被害を受ける途上国の実態を無視し、先進国の産業論理を押し付ける不公正な国際構造の温床となる。

田川さん、以上10点が本日の論点です。


田川
大鷹さん、毎週のことながら複雑な問題が見事に整理されています。

テレビの前のあなたも、これら論点を念頭に置きながらヒルガチにご参加ください。

それでは、早速お二人に昼から生でガチバトルしていただきます。


激甚化する水難災害の恐怖 - 気候危機と原発再評価の現状

田川
まず初めに、激甚化する水難災害の現状と社会心理の確認から始めたい。

ネパールでの氷河や岩の崩落を原因とする土石流、屋根まで雨水に浸かった車、堤防が崩壊し川なのか道路なのか境がわからない信じがたい状況など、国内外問わず水害に関するニュース映像が世界中から届きます。

それらがテレビの前のあなたに、強烈な恐怖心を植え付けているのは想像に難くありません。

実際にSNS上でも災害映像の拡散とともに、気候変動による命の危機を訴える声が急増している。

海老沢さん、市民の気候変動に対するこの直感的な恐怖心は、脱炭素政策を推進する上でどのような影響を与えているとお考えですか。

 
海老沢
人々の心に生じている恐怖心は、危機を突破するための巨大な推進力として機能しています。

利用可能性ヒューリスティックが働いている面は否めませんが、それ自体は悪いことではありません。

利用可能性ヒューリスティック

Availability heuristic
思考の偏り。頭に思い浮かびやすい(利用しやすい)情報や印象的な出来事を優先して頼ってしまう認知バイアス。

むしろ視覚的なインパクトにより、市民の環境意識がかつてないほど高まっているのが現在の世界情勢です。

この焦眉の急を要する事態に対する化石燃料に代わる脱炭素の切り札として、原子力発電をクリーンエネルギーとみなすグリーンタクソノミーの動きが欧州を中心に加速しています。

グリーンタクソノミー

Green Taxonomy
環境的に持続可能な経済活動や資産を明確に定義、分類するための共通基準。

EUタクソノミー において、厳格な安全基準や廃棄物処理の要件を満たす原子力発電を「持続可能な経済活動(グリーンな活動)」として認める委任規則がすでに採択され、2023年1月1日から正式に適用されています。

感情的な恐怖心を科学に基づき現実的な解決策へと昇華させる、これこそが政治の役割なのです。

 
小此木
恐怖心を煽ることで政策を推し進める手法に、私は強い懸念を抱かざるを得ません。

メディアがショッキングな映像を繰り返し流すことで、市民はあらゆる気象災害がすべて温暖化のせいだと錯覚してしまう。

確かに温暖化が進行しているのは事実ですが、水難災害の被害が拡大している要因は決してそれだけではありません。

気候変動へのパニック的な恐怖心が、原発が抱える別次元の巨大なリスクを見え難くさせている現状は非常に危険です。

これはデータに基づく冷静な選択とは言えません。

恐怖心が生み出す場当たり的な回帰現象に過ぎないと考えます。

 
田川
お二人の見解を伺うと、同じ現象を見ても全く異なる社会の姿が浮かび上がってきます。

そこで海老沢さんにお聞きしたい。

たとえ二酸化炭素を出さないとは言え、目に見えない放射能のリスクを再び受け入れることに国民は強い抵抗があるのではないでしょうか。

世間の論調としても、原発再稼働に対する漠然とした不安の声は未だに根強く共有されています。

 
海老沢
東日本大震災の経験による原発に対する国民の懸念は痛いほど理解できます。

2011年(平成23年)3月11日、東京電力福島第一原子力発電所で3基の炉心溶融(メルトダウン)事故が発生しました。

しかし、温暖化による異常気象などの地球環境の変化は確実に進行しています。

それを放置するリスクと原発のリスクを天秤にかけた場合、私たちはどちらを選択すべきなのか。

直近(2026年2月14、15の両日に実施)の朝日新聞の全国調査 では田川さん、意外だと思われるでしょうが、原発再稼働に対し賛成が51%で反対35%を上回っているのですよ。

この数字には私自身も意外と感じています。

ただし、賛成が16ポイント反対を上回ったからと単純に喜ぶほど、私は無邪気ではありません。

反対する方のご意見に真摯に耳を傾け、それにお答えしなければいけないことは重々承知しています。

ここで原発に漠然とした不安をお持ちの方に、現代の原子力技術の実態を説明させて下さい。

田川

ほーう、確かに51%の人が再稼働賛成という調査結果は驚きだ。

現場では具体的に何をどうしているのか、海老沢さん、先端技術の説明を続けて下さい。

海老沢

田川さん、ありがとうございます。

日本政府は国内はもとより、様々な国際機関と協力関係を築きながらスリーマイル島、チェルノブイリ、福島など過去の大事故を深く分析、施設の設計思想を根本から変革し常に改良を続けています。

様々な国際機関
  • 国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)
  • 米国の原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)
  • 日本の原子力規制委員会(NRA:Nuclear Regulation Authority)
  • 世界原子力発電事業者協会(WANO:World Association of Nuclear Operators)
  • 原子炉メーカー(米ウェスチングハウス、GE、日立、東芝、三菱重工など)

その中心となる概念がフェイルセーフです。

フェイルセーフ

Fail-safe
機器やシステムに故障や異常が起きた際、常に安全な状態へ自動的に移行させる設計や仕組み。人間
は間違いを犯しシステムは必ず故障するという前提に立ち、被害を最小限に抑えることを目的とする。

  • 重力を利用
    電源が切れると電磁石で保持されていた制御棒が重力で落下し、炉を確実に停止させる。
  • 自己制御性
    炉内の異常を検知すると核分裂の連鎖反応が自然に抑制される、負の反応度係数の設計が義務付けられている。
  • 自然冷却システム
    炉心の冷却は電動ポンプではなく、温かい水が上がり冷たい水が下がる「自然対流」や「蓄圧タンク」の圧力差を利用し、無電源で数日間炉心を冷やし続ける仕組みが実装されている。
  • コアキャッチャー
    炉心溶融(メルトダウン)が起きた場合、溶け落ちたプルトニウムを受け止め冷却する設備「コアキャッチャー」を格納容器の底に備える。
  • 航空機衝突対策
    大型旅客機が故意に衝突しても破られない、極厚の鉄筋コンクリート製格納施設。
  • サイバー対策
    原子炉の制御システムは外部のインターネット環境から完全に隔離(エアギャップ)されている。

従来の「人が操作し電源を必要とする安全対策」から、「人の手が介在せず、外部電源がなくとも安全機能が動作する仕組み」へと移行しています。

このように事故当時と比較すれば安全対策は劇的に進化しているのです。

とは言え、どれだけ安全性を熱弁しようと、原発反対派の方たちが納得しないのは私も認識しています。

ただし、この現実だけはわかっていただきたい。

このまま化石燃料を燃やし続けるなら、温暖化による水難災害はさらに激甚化する現実を……。

どの選択が人類にとり真に致命的リスクなのか、感情論を排した比較衡量する冷静さが求められています。

 
小此木
もちろん、今の説明で原発否定派を納得させるのは無理ですよ。

フェイルセーフ、すなわち科学技術により原発を完全にコントロール可能だというのはただの思い込みです。

その慢心こそがかつての安全神話の崩壊に繋がった黒歴史を、推進派の方たちはすっかりお忘れになられたようだ。

海老沢さん、過去の過ちをもう一度繰り返すおつもりですか。

どれだけ策を講じようと「事故を完璧に防止するシステム」など存在しない。

これが私の考えです。

加えて、国内での解決策が見出だせない「核のゴミ処理問題」を将来世代に押し付けることにもなる。

放射性物質がもたらす不可逆的リスクを過小評価しているのは明らかです。

これは、倫理的な観点からも許容できるものではありません。

リスクを冷静に比較衡量するならば、その天秤が原発に傾くことはないのです。

自然の脅威とインフラの脆弱 - 歴史が語る気象災害の真実

田川
よくわかりました。

ここからは過去に目を向け、自然の脅威とインフラの脆弱性について論を進めたい。

大雨による大規模災害のすべてを気候変動が原因だとする風潮について、小此木さんが先ほど警鐘を鳴らしておられました。

歴史から考察した場合、災害の真の要因はどこにあるとお考えでしょうか。

 
小此木
水難災害の歴史を紐解けば、その被害の大部分が防災政策の脆弱性が起因しているのは明らかです。

すなわち、被害を拡大させている要因は雨量の増加だけではない。

無秩序な都市開発、治水インフラの未整備、そして無計画な森林伐採など、人為的な環境破壊が本来なら防げたはずの被害を激甚化させているのです。

国土交通省の「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」 において降雨量の増加に対し、既存の治水計画の目標を上回る洪水の頻発を指摘しており、気候変動対策と並行してハード・ソフト両面での治水インフラの再構築が急務とされています。


○ 令和元年東日本台風(台風第19号)では、4日間の総降水量が、神奈川県箱根で1,000mmに達し、気象庁のアメダス観測所等約1,300地点において、12時間降水量は120地点、24時間降水量は103地点で観測史上1位を更新した。これにより、全国 142 箇所で堤防が決壊するなど、河川からの氾濫により約35,000ha が浸水し、死者104名、行方不明者3名、住家の全半壊等70,652棟(一部破損含む)、住家浸水 31,021 棟の極めて甚大な被害が発生した 15)。また、浸水想定区域図が作成されていない中小河川の氾濫による人的被害の発生等のソフト面でも課題が明らかになった。

○令和2年7月豪雨では、7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となった。同期間の総降水量は、長野県や高知県の多い所で2,000mmを超えたところがあり、九州南部および九州北部、東海、東北の多くの地点で、24、48、72時間降水量が観測史上1位の値を超えた。国が管理する7水系10河川、県が管理する58水系193河川で決壊等による氾濫が発生し、13事業者20の鉄道路線で土砂流入等の被害が発生した。また、死者84名、行方不明者2名、住家の全半壊等9,628 棟(一部破損含む)、住家浸水6,971棟の極めて甚大な被害が発生した。

※ 引用:国土交通省同計画書|気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会(2)水災害による被害の増大


すべての責任を気候変動に帰すのは政府が本来果たすべき任務、すなわち治水や防災インフラの対策を怠ってきた事実を隠蔽する行為に他なりません。

私たちは歴史が語る、政府の無策から目を逸らしてはならないのです。

 
海老沢
インフラの脆弱性や治水に対する政府の対策が、有効に機能していないのは確かにご指摘の通りです。

しかし、政府の肩を持つわけではありませんが、過去の経験則や従来の治水インフラでは到底太刀打ちできないレベルの極端な気象現象が頻発している。

これは事実として認めざるを得ないでしょう。

気候変動により引き上げられた災害のベースラインが政府の想定を超えつつある。

かつて夢のエネルギーともてはやされた原発が、東日本大震災で深い挫折を味わったことは事実として認めましょう。

しかし、現在直面している気候パラダイムへの移行期において、トラウマに縛られ最有力な脱炭素ツールである原発を放棄する。

これは未来に対する無責任な態度ではないでしょうか。

原発の放棄と同時にその研究が永久に途絶えてしまうからです。

 
田川
「フェイルセーフの概念を採り入れ、安全対策は劇的に進化している。だから過去の失敗に縛られるな」

「原発を放棄したら研究が永久に途絶えてしまう」

海老沢さんの主張は理屈としては理解できる。

しかし、国民の多くは福島の悲惨な光景を未だに忘れてはいません。

SNSでは今でも大震災の記憶を風化させまいと、3月11日には関連する投稿が明らかに増える。

小此木さん、推進側がかつての安全性から、気候変動対策へと大義名分をシフトさせている現状をどのように捉えていますか。

 
小此木
まさにその大義名分のすり替えこそが、最も危惧すべき歴史的ジレンマの正体です。

スリーマイル島、チェルノブイリ、そして福島、これら痛ましい歴史を経て私たちは安全神話の虚構性を思い知らされました。

それにもかかわらず気候危機という新たな恐怖を利用して、推進側は巧妙に議論の焦点をすり替えている。

福島の教訓が風化し「温暖化で苦しんでいる地球を救うため」という、「苦しんでいるのは地球ではなく人間だろ!」とツッコミを入れたくなるスローガンの下で再び原発が正当化されていく。

このプロセスは社会の倫理観の退行を意味します。

私たちは過去の教訓の上に成り立っている、現代社会の安全性を決して安売りしてはならないのです。

 
海老沢
大義名分のすり替えという批判は的外れもはなはだしい。

気候変動対策は社会の要請に対し、科学技術が相応に応えているにすぎません。

過去の教訓が風化していることなどあるわけがない。

それは我々原発推進派が片時も忘れず、一番意識していることです。

むしろその教訓を包摂した上で、気候変動というより強大で差し迫った脅威に対抗するために、私たちは日々研鑽を積んでいるのです。

治水事業はもちろん必要です。

ただし、それと並行して根本的な原因である温室効果ガスを削減しなければ、どれほど堤防を高くしてもいたちごっこに陥るだけでしょう。

過去のトラウマに囚われて立ち止まってはいけません。

歴史の教訓を胸に刻みながら異常気象へと立ち向かう勇気、すなわち原発の積極的な活用へと舵を切るべきなのです。

温暖化と水害の因果関係に迫る - 世界と日本の現状を比較検証

田川
「原発を活用し異常気象に立ち向かうべき」

海老原さんのご指摘にある異常気象。

ここからは気象学の科学的データに基づき、因果関係の真実について論を進めたい。

海老沢さん、最新の科学は温暖化と極端な降水現象、この二つの間にどのような結論を出しているのでしょうか。

 
海老沢
気象学の最前線であるアトリビューション科学はすでに明確な結論を提示しています。

アトリビューション科学

Attribution Science
観測された異常気象や極端気象に対し、人間活動による気候変動がどの程度影響を与えたかを確率や強度から定量的に評価、分析する科学技術。

人間活動の影響がある気候モデルと人間活動がなかった(自然変動のみの)気候モデルを比較、異常気象の発生確率を計算する。

大気の温度が上昇することで保持できる水蒸気量が増加するという、クラウジウス・クラペイロンの法則が現在の極端降水の激甚化を裏付けています。

クラウジウス・クラペイロンの法則

Clausius-Clapeyron equation
気温が1度上昇すると大気中の水蒸気量が約7%増加するという物理学の基本法則。

この法則による水蒸気量の増加は指数関数的(かけ算)に増えていく。

したがって、気温が高くなるほど1℃上昇したときの水蒸気量の増加実数は多くなる。

番組冒頭に田川さんが示した、気象庁の「大雨の年間発生回数」のグラフが正にこの事実を教えてくれています。

治水インフラが未整備な途上国では、この「自然の凶暴化」の影響をまともに受けてしまう。

結果、社会基盤を直撃され壊滅的な被害に苦しんでいる実態は、視聴者の方たちもニュースなどで見て認識していることでしょう。

一方、万全とは言えないまでも、比較的整備されたインフラを持つ日本でさえ、想定をはるかに超える大雨の頻発により河川の氾濫が相次いでいる。

2026年9月は関東地方や伊豆諸島をはじめ、各地で台風25号や秋雨前線の影響により、9月としては史上1位(過去最高)の雨量が観測される記録的な大雨となりました。

アトリビューション科学の真実と観測される事実を直視すれば、原子力発電所の再稼働と増設が不可避であるという結論に至るのは自然なことなのです。

 
小此木
アトリビューション科学が示す温暖化と極端気象の因果関係を否定するつもりはありません。

しかし、海老沢さんの主張には致命的な論理の飛躍がある。

科学的な因果関係の存在と原発を稼働すべきという主張、この2つの間に必然性はまったくありません。

局地的な水害の全責任を温暖化になすり付け、それを理由に原発推進を正当化する。

これは自らのイデオロギーを主張するために、科学的データの都合がよい所だけをつまみ食いしているに過ぎません。

 
田川
論理の飛躍だと小此木さんが明確に否定されました。

海老沢さん、温暖化と異常気象との因果関係を認めた上で、なぜ他の選択肢ではなく原発でなければならないのか、国民が納得できる理由をお聞かせください。

 
海老沢
田川さんのご質問はまさに本日のヒルガチの核心です。

簡潔に言うならば、「ベースロード電源」 としての供給可能電力量と安定性がその理由です。

※ ベースロード電源:昼夜や天候の影響を受けず、低コストで安定した電力を継続的に供給できる電源。原子力、石炭火力、一般水力、地熱などがある。

他の選択肢、例えば再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、バイオマス発電など)の導入はこれからもどんどん推進するべきです。

ただし、これらは天候に左右される、夜間に発電できない、発電量が少ない、安定性に欠けるなど致命的弱点を抱えています。

現代の高度に情報化された社会や強固な防災インフラを維持するには、昼夜を問わず安定して電力を供給できる「ベースロード電源」が必要不可欠なのです。

再生可能エネルギーだけではそれになり得ない。

経済産業省が策定する第7次エネルギー基本計画 において安全性の確保を大前提としつつ、電力網の安定供給を支える「ベースロード電源」として、原子力の一定の活用を国家目標として位置付けています。


原子力事業者は、地元理解を前提に、稼働する全ての原子力発電所を対象にプルサーマルが導入できるよう検討を進め、2030年度までに、少なくとも12基の原子力発電所でプルサーマルの実施を目指す計画を示しており、事業者間の連携・協力を深めつつ、プルサーマルを一層推進する。

※ 経済産業省「エネルギー基本計画(b)核燃料サイクルの推進」より一部引用

日本の高い技術力があれば原子力発電をゼロエミッション電源として、安定した電力を継続して供給することが十分に可能です。

※ ゼロエミッション電源:発電時にCO₂(二酸化炭素)を排出しないシステム。太陽光や風力などの再生可能エネルギーや原子力発電などがある。

気候変動という世界的な危機に対し、安全性を確実に担保し技術的な妥協を許さず、最も効率的な手段である原子力発電を選択する。

これこそが次世代への責任を果たす道だと私は確信しています。

 
小此木
効率性や安定供給を追求するあまり、取り返しがつかないリスクを抱え込むことの愚かさを私たちはすでに学んだはずです。

海老沢さんは日本の技術力を過信している。

自然の猛威は常に人間の想定を軽々と超えて来ます。

世界と日本の現状を比較したとき、強固なインフラを持つ日本だからこそ一極集中の巨大電源に依存するのではなく、分散型のエネルギーネットワークを構築する余力が残されていると言えます。

水害対策と脱炭素を混同し短絡的に原発に飛びつくのは、社会全体の真のレジリエンスを損なう結果にしかならないのです。


温暖化防止のための原発推進 - 立地が抱える複合災害リスク

田川
再生可能エネルギーは「ベースロード電源」として脆弱という海老沢さんのご指摘、よくわかりました。

続いては、原発が抱える構造的リスクについて論を進めたい。

温暖化を止めるために原発を稼働させるのは、実は新たなリスクを生み出すのではないかとの懸念があります。

小此木さん、原発の立地が抱える災害リスクについて具体的に教えて下さい。

 
小此木
かしこまりました。

原子力発電所は発生する熱を冷却するため大量の水を必要とします。

したがって、豊富な海水がある沿岸部に建設するのが効率的です。

加えて、原子炉容器やタービンなど、陸路では運べない超大型の重量機器を海上輸送で直接搬入しやすくもなる。

事実、日本国内にある17か所(33基)の原子力発電所すべて(廃止措置中や建設中を含むすべての施設)が沿岸部に建設されています。

このため何が起こるか。

温暖化を食い止めるための施設が、温暖化により激甚化する気象災害の最前線に晒される。

この事実は強烈なパラドックスでしょう。

※ パラドックス:正しそうに見える前提や妥当な推論から、直感に反する結論や受け入れがたい矛盾が導き出される現象や命題

気象庁の予測モデリングによると気候変動の進行により、今世紀末には日本沿岸の平均海面水位が最大で数十センチ上昇、高潮による浸水リスクが全国的に増大すると警告されています。

 図1 日本沿岸の海面水位変化(1906~2025年)

※ 引用:気象庁「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」

海面上昇に伴う異常な高潮、過去に類を見ない勢力の巨大台風、そして集中豪雨による堤防の決壊など、沿岸部の原発は常に複合的な自然の脅威と隣り合わせなのです。

もしこれらの気象災害により外部電源が喪失、冷却機能が失われればどうなるか。

気候危機対策のために、過酷事故という別の取り返しがつかない巨大なリスクを抱え込む、それはリスク管理学の観点からも論理矛盾であり完全に破綻しています。

 
海老沢
複合災害リスクに対する小此木さんのご懸念は、安全対策を講じる上での重要なチェックポイントとして真摯に受け止めます。

しかし、現在の原子力規制委員会が定める新規制基準 は、世界で最も厳しいレベルの自然災害を想定して策定されている。

このことは前半にフェイルセーフの説明で触れた通りです。

リスクゼロのエネルギーシステムなどこの世に存在しません。

原発の複合災害リスクを管理し脱炭素を進めるか。

それとも、気候変動による自然の暴走にこれからも振り回されるのか。

どちらを選択するか、日本国民は決断しなければならない時期を迎えているのです。

 
田川
海老沢さんは新規制基準によって安全は確保されていると力説されますが、人間の想定を自然の猛威が上回ることは本当にないのでしょうか。

小此木さん、このコントロール可能という推進側の前提について、国民の不安を代弁する立場としてどのようにお考えですか。

 
小此木
コントロール可能という傲慢な前提こそが、かつての未曾有の被害を引き起こした根源的な間違いです。

自然は常に私たちの想定をいとも簡単に超えてくる。

複合災害において人間の計算通りに、安全対策システムが確実に稼働する保証などどこにもありません。

また、仮に施設自体が持ち堪えたとしても、周辺の交通網や社会インフラの寸断が想定される。

結果、事故対応にあたる作業員のアクセスが絶たれ、原発施設が陸の孤島と化してしまう。

地域住民の命や故郷を奪う可能性があるリスクを、確率論的な安全評価だけで正当化してはいけない。

世代間倫理に照らし合わせても原子力発電は、決して賢明な選択と言えないのです。

 
海老沢
傲慢という言葉で技術の進歩を否定するのは思考停止に等しいと考えます。

私は自然を完全に支配できるとは考えていません。

それこそが傲慢でしょう。

ただし、科学技術の英知を結集することで、原発のリスクを許容可能なレベルまで低減させることは可能と考えます。

原発を全否定し気候変動対策が手遅れになる、それこそが世代間倫理に対する最大の裏切りではないでしょうか。

感情的な恐怖により合理的な判断を鈍らせてはいけません。

客観的データと最新の科学的知見に基づき、次世代に持続可能な地球環境を整備する。

その覚悟こそが今求められているのです。

スタジオゲスト特別インタビュー! 現場と政治の視点から田川が迫る

田川
ここまでの激しい議論を踏まえ、スタジオにお越しいただいた観覧ゲストの方たちに率直なご意見を伺ってみたいと思います。

まずはお一人目、ヒマラヤをはじめ世界中の過酷な山々を制覇してこられたプロアルピニストの加山さん。

現場で自然の脅威と闘ってこられた立場から、今の議論をどうお聞きになりましたか。


加山

ヒマラヤの氷河が崩落し、ネパールの村々が鉄砲水に飲み込まれる悲惨な光景を私はこの目で何度も見てきました。気候変動は机上の空論ではなく、今そこにある明確な死の恐怖です。

小此木さんが仰るリスクは理解できますが、現場の人間からすれば悠長に理想論を語っている時間は残されていません。

強力な「ベースロード電源」である原発を活用してでも、一刻も早くCO2を止めるという海老沢さんの現実的なアプローチに私は賛同します。

田川
現場の切実な声、確かに受け止めました。

続いて、最新のテクノロジーを駆使して社会課題に取り組むIT企業経営者の佐々山さん、いかがでしょうか。


佐々山

IT業界に身を置く人間として、データセンターなどを稼働させるための膨大な電力をどう確保するかは死活問題です。

経済産業省の試算では AI の普及やデータ処理量の爆発的な増加により、国内のデータセンターの電力消費量 は2050年までに現在の数十倍に膨れ上がると予測されています。

だからと原発という古い中央集権的なシステムに回帰することは、イノベーションの観点から見ても非常にナンセンスだと感じています。

複合災害リスクを抱えるレガシー(過去の遺物:原発)に巨額の投資をするくらいなら、分散型の再生可能エネルギーや高度な蓄電池技術など、新しい未来のテクノロジーに資金を振り向けるべきでしょう。

私は小此木さんの主張する、しなやかなレジリエンス社会の構築に強く共感します。

田川
未来のテクノロジーへの投資という経営者ならではの視点、非常に興味深いですね。

さて、政治の最前線で国の舵取りを担う現役衆議院議員の小島さん、政策決定者の立場から一言お願いします。


小島

政治の最大の使命は、国民の命と豊かな生活を守り抜くことです。エネルギー安全保障の観点から見れば資源を持たない我が国にとって、他国に依存しない原発の稼働は国家の存立に関わる最重要課題です。

もちろん安全性の確保は大前提ですが、グリーントクソノミーの波に乗り遅れれば、日本経済そのものが世界から見放されてしまいます。

現実の国際政治と経済を動かすためには、海老沢さんの仰る通り、原発推進という強力なカードを手放すわけにはいかないのです。

田川
国家の存立に関わる課題であるという重い言葉をいただきました。

最後に、グローバルな視点から駐日中国大使の王さん、本日の議論をどうご覧になっていますか。


王

非常に興味深く拝聴しておりますが、気候変動対策を名目にした原発推進には、大国による一種のエゴイズムを感じざるを得ません。

途上国が本当に必要としているのは、先進国が高価な原発を売りつけることではなく、洪水や干ばつから直接命を守るための治水インフラや適応策への惜しみない支援です。

自国のエネルギー政策を正当化するために、グローバルサウスの危機を利用するような論理の飛躍には賛同しかねます。

小此木先生が指摘されたように、もっと地に足のついた国際協力のあり方を模索するべきではないでしょうか。

経済合理性とシステムを徹底検証!原発新増設のタイムスケール

田川
ゲストの皆様、多様な視点からのご意見ありがとうございました。

それでは後半戦、経済合理性とシステムを徹底検証する観点から論を進めたいと思います。

海老沢さん、原発推進派はベースロード電源としての強みを強調されますが、新増設にかかる莫大なコストと時間は気候危機という待ったなしの課題に本当に適合しているのでしょうか。

 
海老沢
ご指摘の通り、原発の新規建造には厳しい安全基準をクリアするための膨大な建設コスト、10年以上の長いリードタイム(Lead time:計画から稼働までに要する時間)が必要となるのは事実です。

しかし、エネルギーシステム全体を俯瞰した場合の経済合理性を忘れてはなりません。

一度軌道に乗れば燃料費の変動リスクが極めて低く、数十年に渡り安価でクリーンな電力を大量に供給し続けられる圧倒的な強みがあります。

気候変動対策は短期的な応急処置ではなく、今世紀末までを見据えた超長期戦です。

目先のコストや時間だけにとらわれてはいけません。

将来の世代に安定したインフラを残すために不可欠な先行投資として、このタイムスケールを許容する社会的な合意形成が急務なのです。

 
小此木
先行投資との言葉は誤魔化しにすぎません。

現場の数字があまりにも現実からかけ離れているからです。

世界中の原発建設プロジェクトにおいて当初の計画からコストが数倍に膨れ上がり、工期が大幅に遅延する事態が相次いでいるのは事実です。

国際エネルギー機関(IEA)などの報告では欧米を中心とする新規の原発建設プロジェクトにおいて、安全対策の強化に伴う工期の長期化 と建設費用の著しい高騰が構造的な課題として指摘されています。

今すぐCO2を減らして極端気象を抑え込みたいという切実な時間的要請に対し、完成するかどうかも分からないシステムに巨額の公費をつぎ込むのは投資対効果を勘案すると誤った選択です。

その莫大な資金を工期が短くコスト低下が著しい再生可能エネルギー、既存の送電網のスマート化に振り分けた方がはるかに迅速かつ確実に脱炭素を実現できるはずです。

 
田川
経済的、時間的コストの問題は国民の生活に直結する非常にシビアな問題ですね。

海老沢さん、税金や電気料金をはじめ光熱費が青天井に膨れ上がる現実に国民は強い不満と不信感を抱いています。

ネット上では再エネ賦課金の負担増や原発稼働に伴う不透明なコストに対し、不満を漏らす声が後を絶たない。

この点についてはどうお答えになりますか。

 
海老沢
コスト高騰への不安はもっともですがそれは技術そのものの欠陥ではなく、政治的駆け引きや規制の度重なる変更など外部要因が大きく影響しています。

革新炉と呼ばれる小型モジュール炉 などの新しい技術開発が進めば、初期投資を抑え建設期間の大幅短縮が期待できます。

小型モジュール炉

SMR:Small Modular Reactor
工場で組み立てて現地に設置する次世代型の小型原子炉。1基あたりの電気出力が300メガワット以下。

さらに、再エネへの過剰な投資は電力網を不安定にし、結果的にバックアップ用の火力発電を維持するための隠れたコストを国民に強いることになる。

真の経済合理性を追求するならば感情的な反原発バイアスを排除し、最新技術の導入によるシステムの最適化を冷静に進めるしかないのです。

 
小此木
未完成である次世代技術のSMRを前提に、現在の経済的非合理を正当化するのは強引すぎますよ。

バックアップコストを問題視する一方、原発が抱える放射性廃棄物の最終処分という、見積もりすら困難な天文学的なバックエンドコストから目を背けているのは推進側の都合の良い論理です。

数万年に渡り管理が必要な核のゴミを生み出し続けるシステム、それが本当に経済論理に合致する合理的選択であるのか。

解決不可能な負の遺産を未来に押し付ける、無責任な推進側の論理に私は断固として異議を唱えます。

気候正義と先進国の責任 - グローバルサウスへの真の支援とは

田川
議論はついにグローバルな視点へと広がってまいりました。

ここからは気候正義と先進国の責任について論を進めたい。

小此木さん、ネパールのようにCO2をほとんど排出していない国が甚大な被害を受けている不条理に対し、先進国はどのような責任を果たすべきだとお考えですか。

 
小此木
まさにその不条理こそが気候正義の根幹をなす問題です。

気候正義(きこうせいぎ)

Climate Justice
気候変動の影響を不当に受ける人々を守り公正な対策を求める国際的な倫理概念。

先進国が過去に大量の化石燃料を燃やして経済成長を遂げたツケを、最も脆弱なグローバルサウスの人々が命をもって支払わされているのが現在の歪んだ世界構造なのです。

※ グローバルサウス:主に南半球のアジア、アフリカ、中南米などの新興国や発展途上国の総称。

この悲劇を解決するために先進国が取るべき真の責任は、自国の原発産業を潤すための技術輸出などではありません。

彼らが今すぐ必要としているのは、迫り来る洪水から命を守るための早期警報システム、強靭な治水インフラの構築などの適応策への直接的な資金と技術の無償提供です。

実際に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のCOPにおいて、気候変動の悪影響に伴う「損失と損害(ロス&ダメージ)」に対応するための新たな基金(FRLD)の運用が合意されましたが、その資金規模は未だ途上国のニーズに対し圧倒的に不足しているのが現状です。

緩和策という名目で世界のマネーが先進国の巨大プロジェクトばかりに集中する現状を打破し、途上国の命を直接救う連帯を示すことこそが私たちが果たすべき真の道義的責任なのです

 
海老沢
途上国への適応策の支援が極めて重要である、この点については全く異論はありません。

しかし、対症療法である適応策にばかり資金を投じても、気候変動の根本原因である温室効果ガスを削減しなければ被害は無限に拡大していく一方です。

先進国が自らの責任として果たすべき最大の貢献は何か。

それは世界の脱炭素化を牽引する圧倒的なクリーンテクノロジーを確立し、それをグローバルに展開することに他なりません。

日本の原子力技術と運用ノウハウは、途上国が化石燃料に依存する経済成長から脱却するための極めて現実的で強力な支援となり得ます。

気候正義の実現には全体的な排出量を劇的に引き下げるための冷徹な戦略が不可欠なのです。

 
田川
温室効果ガスの削減という目標はお二人は共有している。

ただし、それへのアプローチが180度異なる。

海老沢さん、自国の原発のコントロールさえままならない日本が、海外に原発を輸出して本当に責任を持てるのかという素朴な疑問を視聴者は抱くと思います。

 
海老沢
その疑問は至極真っ当なものだと思います。

ただし、日本の原子力技術への信頼は皮肉なことですが、福島第一原発事故を経験したからこそ国際的に高く評価されている側面があります。

悲惨な事故を教訓として生かしている実績があるためです。

私たちが国内での議論を停滞させ技術の伝承を途絶えさせてしまえば、安全基準が不透明な新興国の安価な原発が世界を席巻し、かえって地球規模の安全保障を脅かす結果になりかねません。

自国での厳しい規制と運用実績を積み重ね、その最高水準のフェイルセーフ技術をもって世界の脱炭素化に貢献する。

これこそが、過去の悲劇を経験した日本だからこそ果たせる、気候正義に向けた最大の責務であると私は信じています。

 
小此木
日本の技術力が高いという自己認識は時に現実を直視する目を曇らせます。

福島の教訓を深く刻み込んでいると自負しながら、未だに自国の廃炉作業すら見通しが立たない現状で、他国に技術を輸出して責任を持てるはずがありません。

グローバルサウスの国々が求めているのは新たなリスクの押し付けではなく、地域に根ざした持続可能な発展のモデルです。

自国の産業政策を気候正義という美しい言葉でコーティングし、途上国をビジネスの草刈り場にするようなアプローチは、真の国際協調とは対極にある利己的な態度だと言わざるを得ません。

二項対立を超えたレジリエントな社会へ - 日本発のエネルギー網

田川
番組は終盤を迎えています。

ここまで真っ向から対立してきた意見を踏まえ、二項対立を超えたレジリエントな社会への提言をお聞きして番組を締めたいと思います。

海老沢さん、原発か再エネかという不毛なイデオロギー対立を乗り越え、私たちが目指すべき社会の姿をどのようにデザインされますか。

 
海老沢
本日の小此木さんとの議論を通じて、単一の技術やイデオロギーに固執することの危うさを改めて痛感している次第です。

私たちが目指すべきは原発か再エネかという二者択一ではなく、それぞれの強みを活かしたベストミックスの追求です。

既存の原発の安全性を極限まで高めて活用しつつ、日本が世界をリードするペロブスカイト太陽電池などの革新的な技術を実装していく。

ペロブスカイト太陽電池

Perovskite solar cell
薄くて軽く曲げられるため、あらゆる壁面などに設置可能な次世代太陽電池。

資源エネルギー庁のロードマップ によると日本が技術的優位性を持つペロブスカイト太陽電池は、2030年を目標に量産化と社会実装を目指す国家プロジェクトとして強力に推進されています。

そして、それらをスマートグリッドで結びつけることで、どんな災害にも揺るがない強靭な分散型エネルギー体制の構築が可能となる。

※ スマートグリッド:情報通信技術を活用し電力の需給をリアルタイムで監視、制御し電気の流れを双方向で最適化する次世代の送配電網。

対立を乗り越え科学と技術の力を結集する、これこそが日本の明るい未来を切り拓く鍵だと確信しています。

 
小此木
海老沢さんがベストミックスという柔軟な姿勢を示されたことに心から敬意を表します。

リスクを極度に恐れるあまり、科学的研究を止めてしまうことは私の本意ではありません。

地震や水害という過酷な自然環境と何千年も向き合い、自然の猛威を畏れながらも共生してきた日本には災害に強く、しなやかなレジリエンスの精神がDNAとして組み込まれています。

恐怖に駆られた極端なエネルギー選択ではなく、地域社会の繋がりを取り戻し自然と調和した治水と新しいテクノロジーを統合する。

大きなシステムに依存するのではなく、地域ごとの分散型エネルギー網の構築を通じた自立的な街づくりを目指す

この日本発の新しい環境、エネルギー倫理のモデルは必ずや世界に希望の光を灯すはずです。

 
田川
お二人の素晴らしい歩み寄りに私は司会者として、そして一人の国民として深い感銘を受けました。

真っ向から対立していた意見が激しい議論の末に互いを尊重し、日本の明るい未来に向けたひとつの大きなベクトルへと融合していく。

まさにこれこそが、ヒルガチが目指すクリティカルシンキングの真骨頂であり、テレビの前のあなたにとっても最高に有意義な時間となったはずです。

本日も昼から生でガチバトルしていただきありがとうございました。

そしてお疲れ様でした。


番組名誉顧問、哲学者ソクラテスの私ならこうする!

本コーナーは哲学的視点から本日のテーマを思考することが目的です。オカルトや心霊現象の実在を主張するものではありません。また、否定するものでもありません。日本固有の民俗信仰であるイタコを通じ、哲学を身近に感じていただくための演出とご理解下さい。

 
田川
さて、白熱した議論の後は恒例の特別コーナーです。

ヒルガチの看板娘、恐子さんに名誉顧問を口寄せしていただきましょう。

恐子さん、今日はおやつの南部せんべい、スタッフ一同美味しくいただきました。

本日の議論はいかがでしたか。

 
恐子
田川さん、わもずーっと裏で聞いとったけんど、今日のお二人さんはどっちも頭が良くて、言葉がポンポン出てきてたまげただ。


イタコの恐子
御年87歳、イタコ歴70年、現役のイタコ。ゲンカイモンが1ヶ月かけて出演交渉、やっとの思いで口説き落とす。ずだ袋に忍ばせるおやつの南部せんべいを、いつもスタッフにおすそ分けしてくれる、愛と知性に溢れたヒルガチ自慢の看板娘。

けんど、わから見れば、どっちも「自然」っちゅう恐ろしい神様を、人間のちっこい頭でどうにかできるって思っとるみたいで、ちょっとおっかねぇ気もしたな。

さて、おしゃべりはこのくらいにして、そろそろあの爺さんを呼んでみるべ。

(恐子さん、目を閉じ、印を結んで低い声で呪文を唱え始める)
……来たべ。

 
ソクラテス
田川よ、今日も広場で面白い議論をしておったな。


ソクラテス(紀元前469年生 – 紀元前399年没)
古代ギリシアの哲学者。西洋哲学の祖とされる人物。「無知の知」を自覚し、街頭での対話(問答法)を通じ人々に善や正義を問い続け、魂(プシュケー)の重要性を説く。著作は残さず、その思想は弟子のプラトンらが伝えた。若者を惑わせた等の罪に問われたが、「悪法もまた法なり」と死刑判決を受け入れ70歳でその生涯を閉じる。

 
田川
おー、ソクラテスよ、お待ちしておりました。

本日は気候危機と原子力発電、人類の存亡をかけた難題について議論してまいりました。

この複雑な問題にどのような哲学的な解決策を提示されますか。

 
ソクラテス
うむ。

汝らは気候を、あるいは放射能をコントロールできると本気で考えておるのか?

我(われ)に言わせればそれは、「私は無知を自覚していない傲慢な人間です」と言いふらしているのと同義であるぞ。

田川よ、汝に問う。

人間は自然の摂理を完全に理解し、支配することができる存在であるか?

 
田川
いえ、自然の猛威は常に人間の想定を超えていきます。

完全に支配することなど不可能です。

 
ソクラテス
うむ。

ならば、完全に支配できぬものを基盤にして「絶対的な安全」や「究極の解決策」を構築しようとすること自体が、論理的な破綻を招いているとは考えられぬか?

哲学者ソクラテスの私ならこうする!

汝らが為すべきは、外なる自然を制御しようと躍起になることではない。

己の魂(プシュケー)に問いかけ人間が本来必要とする真の豊かさとは何か、どれだけのエネルギーを消費するのが「善く生きる」ことなのか、それらを徹底的に吟味するのだ。

無限の成長という欲望を捨て自然への畏怖の念を取り戻す。

外なる自然の支配を諦め、内なる己の魂の欲望を抑制するしかないのだよ。

 
恐子
(ゆっくりと目を開けながら)

今日の名誉顧問はやけに説教臭かったな。

要するに、欲張るなってことだべ。

霧晴れて見えぬ道ここに現れん!

 
田川
ソクラテス、そして恐子さん、ありがとう。

本日は、気候危機という恐怖に対し私たちがどう立ち向かうべきか、科学、経済、歴史、そして哲学に至るまで、限界まで議論を深めてきました。

海老沢さんと小此木さんが最後に示してくれた「レジリエントな社会」という共通の希望、そしてソクラテスの「己の欲望を見直す」という教え。

これらを統合した時、私たち日本が世界に提示すべきは最新のテクノロジーと自然への畏怖が共存する、全く新しいエネルギーシステムのあり方なのだと確信いたしました。

この国の未来についてあなたと一緒に明日も考えていこうと思います。

また来週お会いしましょう。



【参考Webサイト】



【ゲンカイモン総括】
ゲンカイモンです。

本日のヒルガチはいかがでしたか。

一つ、気づいたことがあります。

それは、海老沢さんと小此木さんは原発推進の是非で対立しているには違いありませんが、「現在の大量消費社会をいかに維持するか」という意味では同じ考えを共有していると言えます。

すなわち、既存の社会を維持するための電源の選び方で争っているに過ぎないということ。

両者ともが右肩上がりの経済成長と無尽蔵のエネルギー供給、これら現代の自由主義経済の呪縛から抜け出せていません。

本日の議論の帰結として、私は一つの自論をあなたへ提示したい。

それは「エネルギーを望むがままに創る」ことへの執着を手放し、あえて「不足を受け入れる社会システム」へと転換する逆転の発想です。

私たちはいつでもエネルギーを自由に使える環境こそが、豊かな生活であると信じています。

しかし、その豊かさの追求こそが温室効果ガスをまき散らし、気候を狂わせる巨大なリスクを生み出してきました。

肯定側は最新技術という科学への盲信に陥り、否定側は原発のリスク回避という正論を曲げず、結局は別のエネルギー源を模索する負のループから抜け出せていません。

ならば、「必要な時に必要な電力が使えない不便さ」を社会の基本として受け入れてはどうでしょう。

夜は暗闇を受け入れ夏は暑さをしのぐ工夫をし、情報化社会の進化のスピードをあえて落とす。

この「不足の受容」こそがどんな災害にも揺るがない究極の強靭さ、レジリエンスを生み出すのです。

もちろん、「そんな不便な生活は理想に過ぎない。経済が停滞し貧困化したらゲンカイモン、お前は責任を取れるのか!」というお叱りの声があなたから飛んで来るのは承知しています。

しかし、私たちが守ろうとしている「豊かな便利さ」を、人類を破滅から救うための「手放すべき重石」と考えてみたらどうでしょう。

真の豊かさとは自然をコントロールすることではありません。

自然の猛威に翻弄されながらも、生き抜くしなやかな知恵を取り戻すことにある。

これが正に真のレジリエンスではないでしょうか。

今週はここまで。

本日のヒルガチがあなたのクリティカルな思考の醸成にわずかでも貢献できたなら、プロデューサーとしてこれ以上の喜びはありません。

また来週、この広場でお会いしましょう。

ごきげんよう。

【予告】
来週は「尊厳死の是非」を放送予定、どうぞお楽しみに。

【より深くヒルガチを楽しむために】
初めて訪問された方は「ヒルガチの歩き方」 をご覧ください。

【クリティカルシンキングを理解する】
クリティカルシンキングについて「クリティカルシンキングを極める」 で解説しています。

【ゲンカイモン運営哲学】
なぜ、クリティカルシンキングスキルの鍛錬に討論が有効なのか? この答えは「ゲンカイモンの挑戦」 で詳述しています。


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